夜になるまえに

本の話をするところ。

床に転がるほどの愛「裸一貫! つづ井さん」

突然だが、あなたは成人してから床に転がって暴れ回ったことがあるだろうか。私はない。記憶に残らないくらい幼い時分は知らないが、記憶にあるかぎりは子どもの時にだってない。実際に成人が床に転がって同じ言葉をくり返しながら暴れる場面を目にしたら、…

シスターフッドが生まれるとき「アレグリアとは仕事はできない」

シスターフッド、という言葉を最近よく聞くようになった。コトバンクには「姉妹。また、姉妹のような間柄」「ウーマン・リブの運動の中でよく使われた言葉で,女性解放という大きな目標に従った女性同士の連帯のこと」という定義が並ぶ。 kotobank.jp 「アレ…

はじめにことばありき「皆勤の徒」

閨胞?搾門?隷重類?(けいぼう、さくもん、れいちょうるい、と読む)第二回創元SF短編賞を受賞した表題作「皆勤の徒」第一章の最初の一ページから、読む人は未知の言葉に出くわす。これは私が知らないだけで実在する言葉なのか、それとも作者による造語な…

「ラヴレターズ」からお気に入りを五篇並べてみた。

作家、女優、映画監督、映画、タレント……豪華26人が「恋文」を競作!史上最高の執筆陣が放つ、心を鷲づかみにする名文集 あなたはラヴレターを書いたことがありますか?恋心ほどやっかいで愛しいものはない。かつての同級生、年齢の離れた伯父、昔自分を弄んだ…

私が待っていたことば「馬たちよ、それでも光は無垢で」

書評とは、なんだろうか。 しょ‐ひょう【書評】‥ヒヤウ書物の内容を批評・紹介すること。また、その文章。「新刊書を―する」「―欄」 と、広辞苑にある。 では、と今度は「批評」を引いてみる。 ひ‐ひょう【批評】物事の善悪・美醜・是非などについて評価し論…

書くということ、言葉というもの「これはペンです」

この本の表紙には当然ながら、「これはペンです」というタイトルが記されている。そしてその横には、そのタイトルの英訳、「This Is A Pen」も。This is a pen。この、奇妙な文を口にする/書く理由について考えてみる。何かの例文として。あるいはその奇妙さ…

「泣ける本」ではなく。「体の贈り物」

何をどう語ればこの本の美しさを伝えることができるのだろう? 「泣ける」という言葉では到底それは伝わらない。たとえば「汗の贈り物」を、「言葉の贈り物」「悼みの贈り物」を読んで泣いてしまうことは、この本を「泣ける本」のカテゴリーに入れるに十分な…

うらやましいふたり「胃が合うふたり」

「胃が合うふたり」は、「ちはやん」「新井どん」と呼び合う作家と書店員、近しい友人同士であり何よりも「胃が合う」ふたりが、一緒に食べたものについておのおの書いたエッセイを収めた、それぞれの個性が表れる文章が味わい深い一冊である。 うらやましい…

それは「彼」の物語ではなく「ハムネット」

一五八〇年代のイギリスに暮らすある夫婦には、三人の子どもがいた。しかしある時、下の娘ジュディスがペストに罹ってしまう。母アグネスと双子の兄ハムネットは懸命に彼女を看病するが。 この小説のあらすじを簡単に書くとしよう。すると、上のようになるこ…

言葉をとても美しく使う人「パパララレレルル」

言葉をとても美しく使う人が世界には、いる。言葉をとても美しく使うことができない人が大勢を占めるこの世界に在って、その人々はたとえば詩人と呼ばれる。 ああ、これは詩人が書いたな。 そう、詩ではないものを読んでいて思うことがある(そして、詩であ…

たとえ世界を敵に回しても「ピエタとトランジ<完全版>」

そこにいるだけで周りの人間に死をもたらす。そんな「体質」を持った人がいたら、あなたはどうするだろうか? 私だったら、きっとその人に近寄りたいとは思わないだろう。友だちになりたいとは思わないだろう。 しかし、ピエタはちがう。自分では何もしてい…

不潔だった私たちの声を「サワー・ハート」

告白しよう。この本が苦手だった。 本書「サワー・ハート」は中国からアメリカへの移民家族を描いた短編集である。冒頭に置かれた、満足にトイレにさえ行けず、やがては崩壊してしまう(!)アパートに暮らす極貧家族の話「ウィ・ラブ・ユー・クリスピーナ」…

彼女が撃たねばならない「敵」とは「同志少女よ、敵を撃て」

一九四二年、独ソ戦が激化する中、ドイツ兵により住んでいた村の人々と母を殺された少女セラフィマは、赤軍兵士イリーナに救われて狙撃兵となる道を選ぶ。同じ境遇の女性たちと共に厳しい訓練を受けて狙撃の腕を磨き、戦地に赴いた彼女と仲間の狙撃兵たちの…

「超短編!大どんでん返し」からお気に入りを五篇紹介してみる。

名前を見たらびっくりするような錚々たる顔ぶれが2000字で挑む超短編・どんでん返しの世界。188ページで実に30篇もの超短編を楽しむことができる。元気も時間もない時、ちょっと一本…ができるのがいい。すいすいと読むことができ、たとえ相性のよくない話が…

取り上げられた卵を与えてくれるひと「作りたい女と食べたい女」

あらすじ 野本さんは料理を作るのが好き。でも一人暮らしで小食なため、作りたいようには作れない。ある時野本さんは、隣りの隣りに住む春日さんがとってもたくさん食べる人だということを知る。食を通じて、二人は親しくなっていく。 comic-walker.com 野本…