夜になるまえに

本の話をするところ。

『百年の孤独』の次に読んでほしいラテンアメリカ文学 番外編

 『百年の孤独』が文庫化で話題になっているため、これまで三回にわたって、あわせて読んでほしいラテンアメリカ文学を紹介してきた。

 

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 今回は番外編として、ある程度ラテンアメリカ文学に親しんできた人に読んでほしい本を紹介する。
 それが『優男たち: アレナス、ロルカ、プイグ、そして私』だ。

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 本書の著者はハイメ・マンリケ。一九四九年コロンビアに生まれ、高校時代に渡米し、その後英語・スペイン語で詩や小説などの執筆を行う。邦訳があるのは本書のみだが、コロンビアで軍が六千人を超える民間人をゲリラに偽装して殺害した“Falsos Positivos”を題材にした最新作“Like This Afternoon Forever”に至るまで、寡作ながら高い評価を集める作品を発表し続けている。
 本書は、邦題からわかるとおり、スペイン語で執筆した作家・詩人についての本だ。ここに挙げられている四人――レイナルド・アレナス、フェデリコ・ガルシーア・ロルカマヌエル・プイグ、私こと著者ハイメ・マンリケ――には、更に、ゲイであるという共通点がある。本書は、ゲイであることが迫害の理由になるような時代(残念ながら現代がそうでないとは言えないが)に生きて、書いた、ゲイの男性たちについての本なのだ。
特に、著者が実際に友人だったふたり――プイグとアレナス――を書いた章は興味深い。プイグが講師を務めていたコロンビア大学の創作講座を受講しており、その後も交流があったマンリケが描くプイグは、『蜘蛛女のキス』のような哀切な物語を書いた人だと思えないくらい、生き生きとして、楽しそうで、愛情にあふれている。対照的に、マンリケの目を通して見る亡命後のアレナスは、気難しくて辛そうだ。近所に住んでいたというマンリケは、アレナスが人生の最期の日に電話で話した相手でもある。読んでいて、アレナスの自伝『夜になるまえに』の最後の一節が書かれたのは一体いつのことだったのだろうと思わずにはいられなかった。この電話の後だったのだろうか。
 ふたりの作品を読んだことのある人には、これらの章をぜひ読んでほしい。人間としての彼らがつかのまよみがえるのを目撃できるだろう。
 プイグとアレナス、伝説的なふたりの作家が死んだのは、同じ年のことだった。