先日ご報告したとおり、たいへん名誉なことに、錚々たる顔ぶれに混じって「10代がえらぶ海外文学大賞」の選考委員を務めることになった。
「10代がえらぶ海外文学大賞」公式サイトはこちら。
最終的には10代の皆さんがえらぶ賞ですが、5月1日から5月14日の第1次投票では、「10代のための海外文学を応援したい方」なら誰でも作品を推薦できます!!
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そこで改めて10代が主人公の海外文学について考えた。ここでは、これまでに読んだものの中で、現在入手可能なものから3冊、心からすすめられる本を紹介しようと思う。
1.『どこまでも亀』 ジョン・グリーン 金原瑞人 訳 岩波書店
強迫性障害に悩む16歳のアーザは、失踪した大富豪の謎を追って、その息子デイヴィスと再会し、ふたりは惹かれあっていく。
ジョン・グリーンは、『アラスカを追いかけて』『ペーパータウン』『さよならを待つふたりのために』など、ヒット作の多い作家だ。その作品群からこの一作を選んだのは、最後の一文がたまらなく好きだからだ。アーザは細菌に感染することに非常な恐怖を抱いていて、一度その恐怖が暴走すると思考があふれだして止まらなくなってしまう。自身も強迫性障害に苦しんでいるという著者によるその描写は迫力があって、呼んでいると息が苦しくなってしまうほどだ。アーザは物語を通じて自らの症状に苦しめられる。症状はある日突然消えてなくなりはしない。「気になる男の子とつきあうことになりました、強迫性障害も『治り』ました、めでたしめでたし」というような安易なハッピーエンドを、この物語は迎えない。強迫性障害を抱えて、アーザはこれからも生きていく。生きていける。そして彼女がデイヴィスと過ごした時間は、かけがえのないものだ。後からきっと思い出すことになるだろうと予感がするような、そんな時間を、ふたりはたしかに過ごした。そして物語は、この物語をしめくくるのに最高の一文で終わるのだ。
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2.『エヴリデイ』デイヴィッド・レヴィサン 三辺律子訳 小峰書店
主人公Aは毎朝、違う人物のからだで目覚める。からだを借りるのは1日だけ、借りる相手は性別を問わず、でも必ず同じ16才。二度同じからだに入ることはない。それがあたりまえだった。しかしある日、リアノンという少女と出会い、Aはこれまでになかった感情を抱く。
毎日違うからだで目が覚める、とはどういうことか。物語は「5994日目」「5995日目」と、Aが送る1日1日を語っていく。ある時はとんでもなく美しい女性のからだ、ある時は大柄なアメフト選手のからだ。人種も性別も抱える問題もさまざまな16歳の人生を、Aは1日だけ引き受ける。しかし翌日には別の人間になっているから、誰かと継続する関係を持つことはできない。できないと、これまでは思っていた。しかしリアノンと出会って、Aは彼女とまた会いたいと思ってしまった。
明日、自分が誰になるのか、どこにいるのかもわからない。そんな状況で出会ったふたりが、一体いかにして心を通わせるのか。ふたりで一緒に迎える未来は、はたしてあり得るのだろうか。
続編『サムデイ』も、本書を読んだ人には絶対に読んでもらいたい傑作だ。Aとリアノン、ふたりの物語に心をつかまれてしまった人はぜひこちらも続けて読んでほしい。
3.『ボグ・チャイルド』 シヴォーン・ダウド 千葉茂樹訳 ゴブリン書房
舞台は1981年の北アイルランド。医者を目指す高校生ファーガスは、湿地で遺体を発見する。一方ファーガスの兄ジョーは、アイルランド独立を目指し、獄中でハンガー・ストライキを行っていた。
シヴォーン・ダウドは残念ながらあまりにも早く逝ってしまったが、後に素晴らしい作品の数々を遺した。『ボグ・チャイルド』はそのうちの1冊だ。ごく普通の少年でありたいと願いながら、自分ひとりではどうにもできない困難が、ファーガスの肩にのしかかっている。大昔に殺されたらしき湿地の遺体メルの物語と交錯するファーガスの物語は、はるか昔から続く、人と人との争い、争いの中で心を通わせる人たちの物語だ。死ななくていい人たちが争いの中で死んでいく。そんな歴史を終わらせることが、はたしていつかできるのだろうか。
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10代が主人公の海外文学を読むきっかけになりますように。