本が好きだ。そして、本屋が好きだ。さらに、本屋についての本が好きだ。というわけで、ここでは、いろいろなかたちで本屋を描くおすすめの本を三冊紹介したいと思う。
1.『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』内田洋子 文藝春秋
はじまりは、ヴェネツィアの古書店だった。ヴェネツィアに暮らすことになった著者が足しげく通うその店では、客の要望に合った本を、店主のアルベルトが見つけ出してくれる。その書店のルーツは実は、トスカーナ州の山奥にある小さな村、モンテレッジォにあった。特に産物もないその村では、男たちが古本を売りに歩いて生計をたてていたという。
薬や食べ物を売り歩く、というのはよく聞く。しかし、本の行商とは聞いたことがない。著者はこの興味深い村の歴史に心惹かれ、モンテレッジォに向かう。村の人々に会い、話を聞く。そして、「何かに憑かれたように、一生懸命に書いた」(p.11)のがこの本だ。著者と名もなき人たちの偉大な物語との出逢いには、運命を感じざるをえない。
著者とモンテレッジォの人々との物語は、『もうひとつのモンテレッジォの物語』(方丈社)でも読むことができる。
2.『橙書店にて』田尻久子 筑摩書房
熊本にある決して大きくないその書店には、猫が来て、文章を書く人や、本を探す人が来る。そしてそこには、本によって繋がる人たちの輪がある。若者がおじさんになり、子どもが生まれ、恋人たちが別れ、生きていた人が死ぬ。それでも店は変わらずにそこにあり、人の輪を支え続けている。橙書店は、そのような店である。いわゆる「街の書店」が次々と閉店していく中で、このような書店が街にあること、あり続けることの尊さを思う。なるほど本を売ってはいるが、商品を並べて売るという以上の機能を、この店は確かに備えているのだ。
3.『チャリング・クロス街84番地』ヘレーン・ハンフ 江藤淳 訳 中央公論新社
始まりは一九四九年。登場人物はふたり。ニューヨークに住む脚本家、ヘレーン・ハンフ。ロンドンの古書店に勤める男、フランク・ドエル。ヘレーンがフランクの勤める古書店に欲しい書籍のリストを送ったことで始まったふたりの交流は、大西洋を挟み、二十年に及んだ、という驚きの実話。ふたりの手紙のやりとりを集めたのがこの本である。ヘレーンの皮肉たっぷりのユーモアにあふれた手紙に、フランクがあくまで真面目に返信していくのがおかしい。距離という障壁を越えてこの不思議な友情を育んだのは、手紙という時間のかかる手段であり、何よりも両者の本への愛情であった。
これを読んでいるあなたに、お気に入りの本屋がありますように。
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