「LETTERS UNBOUND」はほんやくシスターズ(第1便は廣瀬麻微、吉田育未、梅澤乃奈、武居ちひろの四名、第2便、第3便は廣瀬麻微、梅澤乃奈、武居ちひろの三名)による、毎回一つのテーマに基づいた作品を集めた翻訳同人誌である。訳者自らが発見した作品を、著者と直接やりとりをするなどして収録に至るまでの裏話が覗けることもあり、海外文学ファンにはぜひ手を伸ばしてほしいシリーズだ。
今回はそんな「LETTERS UNBOUND」の最新第3便の各収録作について書きたいと思う。
1.「パティの食堂で世界の終わりを」ナオミ・クリッツァー 廣瀬麻微訳
小惑星によって世界が終わる、かもしれない。そんな時、疎遠になっていた両親に最後に会うために旅をしているローリエンは、立ち寄った<パティの食堂>でロビンとマイケルに出会う。
初めて会ったのに、すぐに打ち解けられる人がいる。あなたが人生において経験したことを、わかってくれる人がいる。ローリエンにとってロビンはそんな人だ。親のつけた名前なんてどうでもいい、と切り捨てて、ローリエンという風変わりな、けれど自分で選び取った名前を尊重してくれる彼女に、まもなく世界が終わるというタイミングで出会えたなんて、幸運でしかない。
フィー・ビンが暮らす老人ホーム、サンライズ・バレーで人気者のカーパルの誕生日会が盛大に開かれる。その後、思わぬ事実が発覚し…
少し前まで元気にしゃべっていた人が、今はもう何もできなくなってしまった。そんな光景が日常的になっている老人ホームで、いつか同じように衰えてしまう日を恐れながら暮らしているフィー・ビン。彼女が最後にとる行動がたまらなく好きだ。それはひとりぼっちの人に寄り添うこと、あなたを気にかける人間がここにいると示すこと。たとえ誰も救うことができないとしても、それくらいのことは、私たちにはできる。
3.「砂の魔女(サンド・ウィッチ)とサンドウィッチ」G・B・ラルフ 梅澤乃奈訳
エリーは好奇心旺盛な少女。ある日海辺で魔女と恐れられる老婆に出会い、言葉を交わす。
周りの人々から爪はじきにされ、ひそひそと陰口をたたかれる。けれどもそんなことは気にせずに我が道を行く。そんな気高い変わり者である魔女、マイケルズさんとたった一度交わした会話が、エリーの中にずっと残っている。そんなふうに誰かに記憶されているというのは、なかなか素敵なことじゃないかと思う。そんな誰かの記憶が、未来を創っていくこともあるのだ。
今回のテーマは”FOOD”ということで、どの話にも食べ物が印象的なかたちで出てくる。世界の終わりを今にも迎えようとする<パティの食堂>で店主のパティが腕を振るう料理、老人ホームサンライズ・バレーで出されるマレーシア料理ナシレマ、魔女が海に捧げる、一口かじったサンドウィッチ。私が食べたいのは<パティの食堂>の大きめのパンケーキ(シロップ付)だ。そろそろ小惑星が地球に衝突するという時には、きっと甘いものが必要だろうから。
末永く続いてほしいシリーズである。既に次号が待ち遠しい。