夜になるまえに

本の話をするところ。

「ラヴレターズ」からお気に入りを五篇並べてみた。

作家、女優、映画監督、映画、タレント……豪華26人が「恋文」を競作!
史上最高の執筆陣が放つ、心を鷲づかみにする名文集

あなたはラヴレターを書いたことがありますか?
恋心ほどやっかいで愛しいものはない。
かつての同級生、年齢の離れた伯父、昔自分を弄んだ男、
はたまたコンビニエンスストアなど、贈り先は多種多様。
史上最高の執筆陣による、他の追随を許さない異色の恋文アンソロジー!(Amazon商品説明ページより引用)

 


 大長編を読んだ後には短編集を読みたくなる。それもごく短い、できれば五ページほどで終わる文章がいくつも収められているようなものを。
 というわけで、なかなかに豪華な執筆陣のそろったこの本を手に取った。以下にお気に入りを五篇並べてみようと思う。
(順番は掲載順)

横尾忠則「タダノリ君へ」
 猫のタマから十五年共に暮らした人間「タダノリ君」への手紙。自分の死を悲しむ「タダノリ君」を案じるタマだが、人間を無条件に愛する、人間に都合のいい動物として描かれてはいない。なにしろ「タダノリ君」は「飼い主」ではなく、タマからすれば「同居人」なのであり、タマはタダノリ君夫妻を「住まわせてあげている」のだ。こんなからっとした調子で書かれているが、作者の深い悲しみと、猫の愛情が感じられる一編。

小島慶子「不機嫌なあなたへ」
 親子関係が原因で心を病み、摂食障害に苦しみ、孤独だった二十三歳の自分に向けた手紙。恐らくは年を経て、「生き残った」自分自身にしかかけられない言葉がある。昔の自分がそういう言葉によって救われることはない。けれど現在の自分は昔の自分にそういう言葉をかけることによって、自らが傷を負っていたことを認め、それを癒すことができる。そのプロセスをありありと目にすることのできる一編。

村田沙耶香コンビニエンスストア様」
 実はこのアンソロジーを、なぜか「作者の実体験を基にした短編」を集めたものだと思っていた。実際は、読んではっきりフィクションだとわかるものもある。念のために言っておくが、この短編ではない(、、、、)。これはタイトル通りコンビニエンスストアとの恋人関係(そう、読み間違いではない。恋人関係だ)について綴った文章だ。「コンビニ人間」に心から共感した身としては、その作者がコンビニエンスストアに恋をしていたとしても何の不思議もない。

砂田麻美「拝啓 飛行機様」
 ある出来事がきっかけで、それまで大好きだった飛行機に恐怖心を抱くことになってしまった「私」から「飛行機様」への手紙。トラウマに苦しみ、病院で治療を受け、それでも愛する飛行機を心身が拒否してしまう悲しみを綴って切ない気持ちにさせてくれる。

皆川博子「君よ、帰り来ませ」
 たった四ページである。この四ページに、作者は古の歌を書き写し、恋の相手の優しさと、恋する者の力強さと、忍ぶ恋の激しさを描いた。この作家の書くものを追いかけてきた者なら、作者名を伏せられても誰が書いたものかわかるだろう。恋文というテーマに迫って見事、まちがいなく本アンソロジーの白眉である。

 

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