夜になるまえに

本の話をするところ。

2023-11-01から1ヶ月間の記事一覧

気になる未邦訳作品第二十八回は”Baddawi” (著者:Leila Abdelrazaq、出版社:Just World Books)

BaddawiはAhmadという名の少年が世界に居場所を見つけようともがく物語である。レバノン北部にあるBaddawiという難民キャンプで育った Ahmad は一九四八年、イスラエル建国につながった戦争の後で故郷を逃れた何千もの難民の子どもたちのひとりだ。 このビジ…

名もなき人々の歴史に刻まれない名前について「歌われなかった海賊へ」

unsung hero、という言葉がある。英雄とはその功績を歌に歌われるものだ。けれど英雄であるのにも関わらず歌われない人がいる。その功績が埋もれてしまっている人々がいる。 本書は、ナチ体制下で体制にあらがったエーデルヴァイス海賊団の少年少女たちを描…

気になる未邦訳作品第二十七回は"My First and Only Love"(著者:Sahar Khalifeh、出版社:Hoopoe)

Nidalは数十年に及ぶ落ち着かない亡命生活ののちに、ナーブルスの家族の家に戻ってくる。そこは1948年のナクバによって一家が世界中に散らばってしまう前、祖母と共に暮らした場所だった。民衆による抵抗運動が始まった時、彼女は若く、流血と苦闘の果てに、…

子どもが大人になるとき「THIS ONE SUMMER」

ここに子どもがいる。母親の体に宿った、まだこの世界に生まれ出ていない子どもが。 そして少女がいる。母親と父親の関係がぎくしゃくしていること、そこに自分以外の子どもが絡んでいることに苛立つ少女、ローズが。 ホラー映画を借りに通う店の店員ダンク…

気になる未邦訳作品第二十六回は"Resist Stories of Uprising" (編者:Ra Page、出版社:Comma Press)

ブレグジットによって社会的・政治的混乱が引き起こされ、気候危機が無視され続ける今、これらの出来事は民主主義国家として未知の領域に属すると考えるのは簡単だ。 しかし英国はこれまでにも政治危機や極右の過激思想を経験してきた。英国の抵抗運動の鍵と…

気になる未邦訳作品第二十五回は"Salt Houses"(著者:Hala Alyan、出版社: Harper)

娘Aliaの婚礼の日、Salmaはカップに残ったコーヒーの粉の痕で彼女の未来を読む。Aliaとその子どもたちが不安定な人生を送るさまがSalmaには見える。旅と幸運も。その日彼女は自らの予知を自分の胸だけにとどめておくことを選ぶが、1967年の第三次中東戦争の…