先日、国際ブッカー賞候補作ショートリストが発表された。最初十三作だった候補作品が絞られ、六作品が残った。
国際ブッカー賞候補作が発表されてからずっと候補作のあらすじを紹介し続けてきたが、今回はショートリスト入りした二作品を含む三作品を紹介する。
この中から選ばれた受賞作品が発表されるのは五月二十一日。
MATER 2-10
※ショートリストに選出。
現代のソウル。ある解雇された労働者が、十六階建ての工場の煙突の上で一か月に及ぶ座り込みを行っている。長く孤独な夜の間、彼は祖先たちに語りかけ、人生の意味や背買いを通じて伝えられてきた智恵についてじっくりと考える。
それらの祖先たち、三世代に及ぶ鉄道労働者たちの人生を通じて、Mater 2-10は日本の植民地時代から始まって独立、そして二十一世紀に至るまで続く普通の韓国人の苦闘を鮮やかに描き出す。ある国の圧政から自由になりたいという願いを描く人の心をつかむ物語であり、近代工業の労働者たちによって流された血、汗、涙を映す叙情的な民話であり、ファンのキャリアの頂点であるーー三十年かけて書かれた傑作だ。
世代の真実の声であるファンはふたたび分断された国家のルーツと現実を描き、韓国の人々の試練と苦難に息を吹き込むことにかけて彼に並ぶものがいない理由をまたしても示している。
日本でも「モレ村の子どもたち」「囚人」などが翻訳されている韓国の作家、ファン・ソギョンの作品。英訳作品はこれで九作目で、八十一歳の彼はショートリスト入りした作家の中で最年長。
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Crooked Plow
※ショートリストに選出。
私は祖母が、お前たちは何をしているのかと訊ねるのを聞いた。「何とか言いなさい!」と彼女は問いただし、お前たちの舌を引きちぎってやると脅した。私たちの片方が彼女の舌を握っているなんて夢にも思わずに。
ブラジルの奥地、人の目を惹かないBahiaの地で、ふたりの姉妹が祖母のベッドの下に古いナイフを見つけ、つかの間その力に惑わされて、その金属を味わうことにする。それに端を発する身震いするような暴力はふたりの人生を運命づけ、永遠にふたりをお互いに縛り付けるのだった。
新たな傑作、今世紀で最も重要なブラジル文学として歓呼の声で迎えられたこの魅惑的で人の心を掴む、ブラジルで奴隷制が廃止された三世代後の最貧地域の自給自足農民たちの人生についての物語は、空想的であると同時に現実的で、家族、スピリチュアリティ、奴隷制とその余波、そして政治的な苦闘というテーマをカバーしている。
ブラジル出身の著者Itamar Vieira Juniorと翻訳者Johnny Lorenzのインタビューがこちらから読める。
これによると、過去の国際ブッカー賞受賞作・候補作の中でItamar Vieira Juniorのお気に入りはハン・ガン「菜食主義者」とのこと。
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Crooked Plowwww.versobooks.com
The House on Via Gemito
Via Gemitoの絵具とテレピン油のにおいのするつつましいアパート。家具はまにあわせのスタジオを作るために壁に寄せられている。乾きかけのキャンバスは毎晩ベッドから床へと移される。鉄道員である父親Federíは自分には偉大な芸術の才能があると信じている。もし養わなければならない家族と仲間のナポリの芸術家たちの嫉妬がなければ、なにものも彼が世界的に有名な画家になるのを止められないだろう。野望を抱き、挫折を味わい、真に才能に恵まれ、しかし傲慢で怒りっぽく、 Federíは度重なる失望に傷つく。彼は力強く堂々として、嘘つきで、話を作り、彼の抱く妄想は周りの人間の人生を形成する。特に幼い息子MimiーDomenicoの愛称ーは人生を通じて父親の影から抜け出そうとすることになる。
この作品はイタリアの権威あるストレーガ賞を受賞している。著者Starnoneはナポリ生まれで現在はローマ在住。
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国際ブッカー賞候補作紹介