夜になるまえに

本の話をするところ。

日本文学

物語を生きのびた後に「星を編む」

「物語が終わる時」は、その物語に登場した人の人生が終わる時である、とはかぎらない。もちろん物語の結末で死んでしまう人物はいくらでもいるけれども、物語を生き残った人の人生は、その先も続いていく。ごくごくあたりまえのことだ。しかし、その「物語…

我が道にだってでこぼこはある「成瀬は天下を取りにいく」

※本書の結末に触れている部分があります。 我が道を行く、という言葉がある。 成瀬のことである。 成瀬とは、本書に登場する成瀬あかりのことだ。同じマンションに生まれた親友の島崎みゆきいわく、「いつだって成瀬は変だ」。幼いころから走るのも歌うのも…

私たちに通じることばで「マリはすてきじゃない魔女」

ことばの通じる人と話すのは、とても楽だ。その人たちと話す時には、何を説明することもない。あたりまえのように、私の使うことばをその人たちは知っている。ことばの通じない人と話す時、会話の大半は、ことばの意味を説明することに費やされてしまうのに…

よくしゃべるが語らない小説「アイスネルワイゼン」

主人公はピアノ教師である。三十代、経済的に豊かではなく、どうも恋人との間には問題があるようで、更には親との関係もよくないらしい。主人公は旧友に頼まれた歌手の伴奏の仕事をしぶしぶ引き受けるが、そのためにさんざんな目に遭う。その後友人の家に行…

神は人間になりたい「美しい彼」

高校のピラミッドの底辺に位置する平良は、自分とは真逆に頂点に立つ美しい同級生の清居に恋をする――というあらすじを聞いて想像したのとまったく違う話じゃん、というのが最初の正直な感想である。美しく、わがままで、気まぐれな相手に恋をしてしまったが…

わたしたちはどちら側にいるのか「生命式」

表題作「生命式」に描かれるのは、たとえば剣と魔法が活躍するファンタジー世界、ではない。それは今わたしたちが住んでいるこの世界、に限りなくよく似ている、ようだ。しかし昼食時に主人公池谷の後輩から「以前職場にいた中尾さんが亡くなった」というニ…

だって川上弘美がそう書いているのだから。 「東京日記 1+2 卵一個ぶんのお祝い。/ほかに踊りを知らない」

エッセイの書評を書くのは難しい。いわんや日記の書評をや。しかも、これは日記、なのだけれども、当たり前ながら川上弘美の書くものでもあって、川上弘美の書くものに書評など本来ならば必要はないのである。百足になぜおまえの足はそんなに多いの? と訊い…

シスターフッドが生まれるとき「アレグリアとは仕事はできない」

シスターフッド、という言葉を最近よく聞くようになった。コトバンクには「姉妹。また、姉妹のような間柄」「ウーマン・リブの運動の中でよく使われた言葉で,女性解放という大きな目標に従った女性同士の連帯のこと」という定義が並ぶ。 kotobank.jp 「アレ…

はじめにことばありき「皆勤の徒」

閨胞?搾門?隷重類?(けいぼう、さくもん、れいちょうるい、と読む)第二回創元SF短編賞を受賞した表題作「皆勤の徒」第一章の最初の一ページから、読む人は未知の言葉に出くわす。これは私が知らないだけで実在する言葉なのか、それとも作者による造語な…

「ラヴレターズ」からお気に入りを五篇並べてみた。

作家、女優、映画監督、映画、タレント……豪華26人が「恋文」を競作!史上最高の執筆陣が放つ、心を鷲づかみにする名文集 あなたはラヴレターを書いたことがありますか?恋心ほどやっかいで愛しいものはない。かつての同級生、年齢の離れた伯父、昔自分を弄んだ…

私が待っていたことば「馬たちよ、それでも光は無垢で」

書評とは、なんだろうか。 しょ‐ひょう【書評】‥ヒヤウ書物の内容を批評・紹介すること。また、その文章。「新刊書を―する」「―欄」 と、広辞苑にある。 では、と今度は「批評」を引いてみる。 ひ‐ひょう【批評】物事の善悪・美醜・是非などについて評価し論…

書くということ、言葉というもの「これはペンです」

この本の表紙には当然ながら、「これはペンです」というタイトルが記されている。そしてその横には、そのタイトルの英訳、「This Is A Pen」も。This is a pen。この、奇妙な文を口にする/書く理由について考えてみる。何かの例文として。あるいはその奇妙さ…

言葉をとても美しく使う人「パパララレレルル」

言葉をとても美しく使う人が世界には、いる。言葉をとても美しく使うことができない人が大勢を占めるこの世界に在って、その人々はたとえば詩人と呼ばれる。 ああ、これは詩人が書いたな。 そう、詩ではないものを読んでいて思うことがある(そして、詩であ…