夜になるまえに

本の話をするところ。

お知らせ:文学フリマ大阪12に出ます

来る9月8日に開催される文学フリマ大阪12に出店します。 bunfree.net ↓こちらはWebカタログです。「左岸 Life for Books」という名前で登録しております。 c.bunfree.net 今回は久しぶりにコピー本ではない新刊を持っていく予定です。 その名も、「あなた…

「驚愕の1行で終わる3分間ミステリー」からお気に入りを五編選んでみた。

ショートショートが好きだ。 一編十ページくらいのものを、他の読書に疲れた時に読む。こういう本は常にキープして、寝る前や通勤時間にちょこちょこと読むようにしたいのだが、読み始めるとするすると読めて、結局いつのまにかトータルで三百ページくらい読…

傷と共に生きる「グリフィスの傷」

すっかり忘れてしまっていた傷があり、今も毎日の暮らしの中でうずいている傷がある。どんな種類のものにしろ、必ず傷はそこにある。 本書には十の短編が収められているが、各編の主人公は皆、なんらかの傷を負ったことのある人たちだ。彼らは決して、何かを…

『百年の孤独』の次に読んでほしいラテンアメリカ文学 番外編

『百年の孤独』が文庫化で話題になっているため、これまで三回にわたって、あわせて読んでほしいラテンアメリカ文学を紹介してきた。 saganbook.com saganbook.com saganbook.com 今回は番外編として、ある程度ラテンアメリカ文学に親しんできた人に読んでほ…

プライド月間を振り返る ~#PrideMonth2024で投稿したクィア・ストーリーについて~

プライド月間である六月に、Xで「PrideMonth2024」というハッシュタグで一日一件クィア・ストーリーを投稿するという試みをした。せっかくなのでこちらにも残しておこうと思う。 6月1日 「イエルバブエナ」ニナ・ラクール/吉田育未訳、オークラ出版 荒れ果…

『百年の孤独』の次に読んでほしいラテンアメリカ文学 其の三

ついに文庫化されて今話題を呼んでいる『百年の孤独』。この機に乗じてラテンアメリカ文学をおすすめしたい…!と思って記事を書いた。 saganbook.com saganbook.com 今回も更なるおすすめラテンアメリカ文学を紹介したいと思う。 1.『ペドロ・パラモ』フア…

気になる未邦訳作品”The Great Believers"

1985年、シカゴにあるアートギャラリーのデベロップメント・ディレクターであるYale Tishmanは見事な手腕を発揮し、1920年代の絵画の素晴らしいコレクションがギャラリーに寄贈されようとしている。しかし彼のキャリアが花開き始めたころ、周囲ではエイズの…

『百年の孤独』の次に読んでほしいラテンアメリカ文学 其の二

『百年の孤独』の次に読んでほしいラテンアメリカ文学 第二弾です。

気になる未邦訳作品”Distancia de rescate” de Samanta Schweblin

Amandaという名の若い女性が地方の病院で死にかけている。Davidという名の少年がその傍らに座っている。彼女は彼の母親ではない。彼は彼女の子どもではない。ふたりは共に、壊れた魂、毒、家族の力と絶望についての、頭に取りついて離れないような物語を語る…

『百年の孤独』の次に読んでほしいラテンアメリカ文学

『百年の孤独』の次に読んでほしいラテンアメリカ文学を紹介します。

気になる未邦訳作品~国際ブッカー賞候補作編⑨~

先日、国際ブッカー賞候補作ショートリストが発表された。最初十三作だった候補作品が絞られ、六作品が残った。 thebookerprizes.com 国際ブッカー賞候補作が発表されてからずっと候補作のあらすじを紹介し続けてきたが、今回はショートリスト入りした二作品…

気になる未邦訳作品〜国際ブッカー賞候補作編⑧〜

国際ブッカー賞候補作紹介、今回はベネズエラ出身の作家Rodrigo Blanco Calderónによる"Simpatía"。 “Simpatía” の舞台はニコラス・マドゥーロ政権下のベネズエラ、多くの知識階級の人々がペットを置き去りにして出国していたころ。主人公の映画ファンUlises…

「嘘をついたのは、初めてだった」からお気に入りを五本選んでみた。

「嘘をついたのは、初めてだった」という一文から始まる二十九編の短編を集めたアンソロジー「嘘をついたのは、初めてだった」。同趣向の「黒猫を飼い始めた」に続く第二弾である。今回は本書からお気に入りを五編紹介したいと思う。 ※掲載順に並べてある。 …

気になる未邦訳作品~国際ブッカー賞候補作編⑦~

国際ブッカー賞候補作の紹介、その七です。 今回はペルー出身で現在はマドリードに拠点を置いているGabriela Wienerの作品、”Undiscovered”。 パリの民俗博物館でGabriela Wienerは、自身の受け継いだふつうではない遺産に直面していた。彼女が見ているのは…

気になる未邦訳作品~国際ブッカー賞候補作編⑥~

国際ブッカー賞候補作の紹介、その六です。今回はポーランドの詩人の小説デビュー作”White Nights”です。 詩人Urszula Honekのデビュー短編集”White Nights”はポーランド南部のBeskid Niski地域のある村で成長し暮らしている(いた)人々を襲うさまざまな悲劇…

気になる未邦訳作品〜国際ブッカー賞候補作編⑤〜

国際ブッカー賞候補作の紹介、その五です。今回はドイツの作家ジェニー・エルペンベックの"Kairos"。 ベルリン、1986年7月11日。ふたりは偶然バスで出逢った。彼女は若き学生、彼は年上で既婚者。共有する音楽と芸術への愛に煽られ、守らなければならない秘…

気になる未邦訳作品~国際ブッカー賞候補作編④~

国際ブッカー賞候補作を紹介するシリーズ第四弾です。 国際ブッカー賞候補作を紹介するシリーズはこちらから↓ saganbook.com saganbook.com saganbook.com 今回紹介するのはスウェーデンの作家Ia Genberg による”The Details”。 有名アナウンサーによる忘れ…

気になる未邦訳作品~国際ブッカー賞候補作編③~

国際ブッカー賞候補作を紹介するシリーズ第三弾です。 国際ブッカー賞候補作を紹介するシリーズはこちらから↓ saganbook.com saganbook.com 今回紹介するのはイタリアの作家、Veronica Raimo作”Lost on Me”。 Veroはローマで風変わりな家族と共に育った。ど…

気になる未邦訳作品~国際ブッカー賞候補作編②~

先日発表された国際ブッカー賞候補作から一冊をご紹介します。 邦訳のある作家の作品ばかり三冊を紹介した第一弾はこちら。 saganbook.com もし双子の片割れがこれ以上生きることを望んでいなかったら?もしもう一人が、片割れなしで生きて行けなかったら? …

気になる未邦訳作品~国際ブッカー賞候補作編~

国際ブッカー賞2024候補作から三作品を紹介します。

エレンディラがあらかじめ奪われていたもの、フュリオサが私たちにくれたもの

ガブリエル・ガルシア=マルケスの言わずと知れた名高い短編「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」を読んだ時、私にはわからないことがあった。 エレンディラはどうして自分で祖母を殺さないのだろうか? 「無垢なエレンディラと無情な…

ドラマ「作りたい女と食べたい女」シーズン2感想 原作からの変更の意味について

※ドラマ「作りたい女と食べたい女」シーズン2および漫画「作りたい女と食べたい女」の内容に触れています。 はじめに 四つのエピソード 変更の結果は? こちらもどうぞ はじめに 「作りたい女と食べたい女」が好きだ。漫画がまず好きだった。映像化されると…

物語を生きのびた後に「星を編む」

「物語が終わる時」は、その物語に登場した人の人生が終わる時である、とはかぎらない。もちろん物語の結末で死んでしまう人物はいくらでもいるけれども、物語を生き残った人の人生は、その先も続いていく。ごくごくあたりまえのことだ。しかし、その「物語…

気になる未邦訳作品第三十五回は"OH, ¡FELIZ CULPA!"(著者:Iván León、出版社:Editorial Egales)

語られなければ、存在しない。 このように、沈黙のうちに、語られる機会を待っている無数の物語がある。LGBTQI+の人々に対するコンバージョンセラピーにまつわる物語のように。しかしそんなもの、私たちの国に存在するのだろうか? そしてなにより、それら…

我が道にだってでこぼこはある「成瀬は天下を取りにいく」

※本書の結末に触れている部分があります。 我が道を行く、という言葉がある。 成瀬のことである。 成瀬とは、本書に登場する成瀬あかりのことだ。同じマンションに生まれた親友の島崎みゆきいわく、「いつだって成瀬は変だ」。幼いころから走るのも歌うのも…

気になる未邦訳作品第三十四回は”We Are Okay”(著者: Nina LaCour、出版社:Dutton Books for Young Readers)

あなたは必要なものがたくさんあると思いながら人生を体験する…それも電話と、財布と、母親の写真だけを持って旅立つ時までだ。すべてを置き去りにした日からMarinは昔の人生に関係のある人とは誰とも口をきいていない。あの最後の数週間の真実を知る者はい…

寝る前に読みたい「ぱっちり、朝ごはん」

アンソロジーが好きだ。それも、一編が五ページから十ページくらいの、ちいさくまとまった文章がたくさん載っている文庫本なんかがいい。そういう本を寝る前にぱらりぱらりとめくり、いろいろな人のいろいろな声を聞きながら、いつのまにかうとうとしてしま…

気になる未邦訳作品第三十三回は”Somewhere Beyond the Sea”(著者: TJ Klune、出版社:Tor Books)

魔法の家。秘密の過去。何もかもを変えてしまいかねない召喚。 アーサー・パルナッサスが生きているよき人生は、酷い人生の灰の上に築かれたものだ。 彼は遠く離れた風変わりな島にある奇妙な孤児院の長であり、まもなく孤児院に暮らす六人の危険で魔法を持…

フィルポッツを再発見「孔雀屋敷」

あなたのイーデン・フィルポッツはどこから? と訊かれたら、「小学校の図書室から」と答える。子ども向けの探偵小説全集に「闇からの声」が入っていたのだ。たしか表紙には悲鳴を上げていると思しき子どもの顔が描かれていて、すごく怖い本のように見えた。…

気になる未邦訳作品第三十二回は”Ninth House” (著者:Leigh Bardugo、出版社:Gollancz)

Galaxy ‘Alex’ Sternはイェール大学新入生クラスのもっとも「らしくない」メンバーだ。学校は中退し、恐ろしい未解決事件の唯一の生き残りでもあるAlexは新たなスタートを切ることを望んでいた。しかし世界で最も権威ある大学の一つにただで入るからには、落…