夜になるまえに

本の話をするところ。

気になる未邦訳作品”Hello Beautiful”

今回ご紹介するのは、アン・ナポリターノの”Hello Beautiful” ウィリアム・ウォーターズは悲劇によって沈黙した家で育った。両親は彼を見ることにも耐えられなかった。ましてや愛することなんてできなかった――だから、大学に入った年に活発で野心的なジュリ…

ポール・アルテに夢中。『赤髯王の呪い』と『殊能将之 読書日記 2000-2009 The Reading Diary of Mercy Snow』

ポール・アルテに夢中なのである。 私が、ではない。殊能将之が。 『殊能将之 読書日記 2000-2009 The Reading Diary of Mercy Snow』(以下『殊能将之 読書日記』)『を今少しずつ読んでいるのだが、その中で殊能将之が…

気になる未邦訳作品”The Emperor of Gladness”

今回ご紹介するのは、オーシャン・ヴオンの新作”The Emperor of Gladness”。 世界でいちばん難しいのはたった一度の人生を生きることだ… コネチカット州の脱工業化した街、イースト・グラッドネスで、夏も終わりかけたある夜、十九歳のハイはたたきつけるよ…

未公開ホラー映画"Cuckoo"が観たい!

今回はいつもと違って本ではなくホラー映画の話をしようと思う。このブログは基本的には本の話をする場所なのだが、時にホラー映画の話をする場所にもなる。なぜなら筆者がマイナーなホラー映画を紹介するZINEを作ってしまうほどホラー映画が好きだからだ。 …

気になる未邦訳作品”Suicide Club”

今回ご紹介するのは、レイチェル・ヘンのデビュー作、”Suicide Club”。 レア・キリノは<ライファー>だ。つまり、遺伝子のサイコロでいい目を出し、永遠に生きる可能性を与えられたということだ—もしも全部正しくやれば、だが。そしてレアは人並み以上の成功…

海外文学ファン、集まれ。「LETTERS UNBOUND第3便 テーマ:FOOD」

「LETTERS UNBOUND」はほんやくシスターズ(第1便は廣瀬麻微、吉田育未、梅澤乃奈、武居ちひろの四名、第2便、第3便は廣瀬麻微、梅澤乃奈、武居ちひろの三名)による、毎回一つのテーマに基づいた作品を集めた翻訳同人誌である。訳者自らが発見した作品を…

気になる未邦訳作品”Come Closer”

本日ご紹介するのは、『探偵は壊れた街で』『探偵は孤高の道を』の私立探偵クレア・デウィット・シリーズなどの邦訳があるサラ・グラン作、”Come Closer”。 普通じゃないことが起こっていると考える理由はなかった。 アパートの奇妙な物音。 衝動的な行動。 …

本屋についての本 三選

本が好きだ。そして、本屋が好きだ。さらに、本屋についての本が好きだ。というわけで、ここでは、いろいろなかたちで本屋を描くおすすめの本を三冊紹介したいと思う。 1.『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』内田洋子 文藝春秋 はじまりは、ヴ…

気になる未邦訳作品”Unwind"

アメリカの第二次シビルウォーの後、プロチョイス派とプロライフ派は同意に至った。彼らの生命法によれば、人間の生命は受胎の瞬間から十三歳までは終わらせてはならない。しかし十三歳から十八歳までの間なら、親は"アンワインディング”というプロセスを経…

のんびりを、召し上がれ。『ひんやり、甘味』

のんびりしたいなあ、という時がある。わりとしょっちゅうある。 そういう時に読みたいのがエッセイだ。それも短い話がいくつも入ったものがいい。それが食べ物についての話だとなおいい。食べ物の話を読むと何か食べたくなるし、何か食べなくなるということ…

気になる未邦訳作品”The Final Strife”

今回ご紹介するのは、アフリカやアラビアの神話にルーツをもつファンタジー三部作の第一作、”The Final Strife”。 赤は精鋭たち、魔法と支配の血。 青は貧しい者たち、働く者、反逆者たちの血。 透明は奴隷たち、打ちひしがれた者、見えない者たちの血。 Syl…

Shudder Originalの未公開作品を三本紹介してみる。

Shudderという配信サービスがある。残念ながら日本からは契約できないのだが、主にホラーを扱う配信サービスで、オリジナルの映画やドラマを制作してもいる。このオリジナル作品、いくつかは日本でも公開されているのだが、なかなかのラインナップなのである…

気になる未邦訳作品Fear Streetシリーズより”The Confession”

今回ご紹介するのは、ご長寿YAホラーシリーズ"Fear Street"の一冊”The Confession”。 クラスメイトのアルが死んだ時、ジュリーとその友人たちは、心が砕けてしまったとはいえない。アルには我慢ならなかったし、ならずその死を願いさえしたからだ。しかし他…

会ったことのない人をなつかしむこと「八本脚の蝶」

「これから泳ぎにいきませんか」という、なんとも謎めいて魅力的なタイトルの本がある。穂村弘による書評集だ。読んでいると、このタイトルが、ある人物から実際に投げかけられたことばであることが判明する。その人と穂村は、夕食を食べながら仕事の打ち合…

気になる未邦訳作品””Our Missing Hearts”

今回ご紹介するのは、今注目の作家、セレステ・イングの長編第三作、”Our Missing Hearts”。 12歳のBird Gardnerは愛情深い父と共に静かに暮らしている。父は以前言語学者だったが、今は大学図書館で棚に本を並べている。 中国系アメリカ人で詩人の母マーガ…

ギリアン・フリンのたくみな語り「カーターフック屋敷へようこそ」

ギリアン・フリン、と聞いてあなたが思い出すのは何だろうか。 代表作といえばなんといっても『ゴーン・ガール』だろう。数々の賞にノミネートされ、刊行の翌年にデヴィッド・フィンチャー監督による映画も公開されて話題を集めた。その後デビュー作『KIZU―…

気になる未邦訳作品”Under the Whispering Door”

今回ご紹介するのは、日本でも『セルリアンブルー 海が見える家』(金井真弓 訳、オークラ出版)が出版されているT.J.クルーンの”Under the Whispering Door”。シリーズ作品も多数発表しているクルーンだが、本人のサイトを見ると、こちらは独立した作品らし…

『のすたるじあ』からお気に入りを三編選んでみる。

江戸川乱歩が激賞し、星新一が「あきらかに城さんの影響を受けている」(p.125)と語った作家、城昌幸。独特の詩情をたたえたその作品群が、『みすてりい』『のすたるじあ』の二冊に収められ、同時発売された。 ここではそのうちの一冊『のすたるじあ』から…

気になる未邦訳作品:エドガー賞短編部門受賞作”Eat My Moose”を一部読んでみた

アメリカ探偵作家クラブが毎年優れたミステリーに授与するエドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ=Mystery Writers of Americaの頭文字をとってMWA賞ともいう)の受賞作が先日発表された。短編部門の受賞作はエリカ・クラウスによる一編、“Eat My Moose”だった…

『だから捨ててと言ったのに』からお気に入りを三編選んでみる。

このシリーズが好きだ。 本書は『黒猫を飼い始めた』に始まる講談社刊行のアンソロジーシリーズの第四弾である。アンソロジーのテーマはいずれも、最初の一行が共通しているということ。その共通する最初の一行が各巻のタイトルになっている。つまり本書に収…

気になる未邦訳作品"Thirteen Doorways, Wolves Behind Them All"

フランキーの母が亡くなり、父は彼女ときょうだいたちをシカゴの孤児院に置いていったが、それはあくまで一時的なことのはずだったーー彼が立ち直り、ふたたび子どもたちを養うようになるまでの間のことだ。だからフランキーは心の準備ができていなかった。…

気になる未邦訳作品 “The Rest of Us Just Live Here” by Patrick Ness

パトリック・ネスという名前に聞き覚えはないだろうか。そう、近年翻訳が相次いでいるシヴォーン・ダウドが遺したアイデアをもとに『怪物はささやく』を書いたのがパトリック・ネスだ。女性が死に絶え、男性はお互いの考えが聞こえるようになった世界を舞台…

10代が主人公の海外文学3選

先日ご報告したとおり、たいへん名誉なことに、錚々たる顔ぶれに混じって「10代がえらぶ海外文学大賞」の選考委員を務めることになった。 saganbook.com 「10代がえらぶ海外文学大賞」公式サイトはこちら。 最終的には10代の皆さんがえらぶ賞ですが、…

K-Bookフェスティバルに行ってきた。その④

さて、楽しく待ち時間を過ごし、イベント開始の時間になった。 ここからは参加できたイベントの紹介をすることにする。 1.『誰もが別れる一日』刊行記念トークイベント 「危機」と「不安」を描く韓国リアリズム文学にせまる 斎藤真理子×金みんじょん ソ・…

「10代がえらぶ海外文学大賞」についてお知らせ

このたび、「10代がえらぶ海外文学大賞」で選考委員を務めることになりました。 こちらが公式サイトです。 10daikaigaibungaku.wixsite.com (自分以外の選考委員の錚々たる顔ぶれにどきどきしております!) 「10代がえらぶ」とあるとおり、最終的には…

K-Bookフェスティバルに行ってきた。その③

さて、二日目である。新幹線が遅れるというアクシデントのため、参加したかったイベントに参加できなかった一日目。その点二日目は、自分の頑張り次第でいくらでも早くから並ぶことができる。さあ頑張るぞ。 とは思ったものの、さてどれぐらい早くに会場に行…

観たいけど観られない!未公開ホラー映画三選

海外のホラー映画の予告編を追いかけていると、「しばし待つ」ことを覚える。「テリファー」級のヒット作でもない限り、たいてい日本公開には時間がかかるからだ。そして「しばし待」ってから、ふと思い出すことがある。あの映画、予告編を観てからもう二年…

K-Bookフェスティバルに行ってきた。その②

さて、いざふたたび会場へ。あたりまえだがたくさんのブースが並んでいる。そしてたくさんの人たちがそれを見ている。女性が多いようだ。そして若者も。これがみんな、多かれ少なかれ韓国文学に興味のある人なのか。すごい熱気だ。みんな本を抱えている。し…

K-Bookフェスティバルに行ってきた。その①

朝八時を少し過ぎたころだったろうか。私は京都駅にいた。九時一分発の新幹線に乗るためである。新幹線の中で食べるつもりの朝ごはんをゆっくりみつくろって、それでも時間が余るだろうからちょっと早く出る便に予約を変更しようかな、などと思っていた。 予…

気になる未邦訳作品~全米図書賞候補作⑤~

全米図書賞のフィクション部門の候補作はすべて紹介した。今回ご紹介するのはYA部門の” Kareem Between”。 七年生が始まり、Kareemは既にへまをした。 親友は引っ越し、フットボールの入部テストでしくじり、ルーツのために新入生ー恥ずかしいくらいなまって…