アンソロジーが好きだ。それも、一編が五ページから十ページくらいの、ちいさくまとまった文章がたくさん載っている文庫本なんかがいい。そういう本を寝る前にぱらりぱらりとめくり、いろいろな人のいろいろな声を聞きながら、いつのまにかうとうとしてしまう。そんなふうに眠りに落ちるのがいい。それにぴったりのシリーズがある。そう、おいしい文藝シリーズだ。
表紙がいい。イラストで描かれたその巻のテーマの食べ物が、実においしそうなのである。ふだんパン一つで朝食を済ませてしまう人間でも、「ぱっちり、朝ごはん」の表紙を見れば、「これぞ朝ごはん」と思わずにはいられない。目玉焼き。ハム。トマト。レタス。それらがみな、丸い、白いお皿にのっている。目玉焼きってそういえば、朝ごはん以外ではあんまり食べないよな。そんなことを思いながらページをめくる。どんどんめくる。あれ、いつのまにかこんなに進んでしまった。もっと読みたい。でも、読み終わりたくはない。いつまででも読んでいられるような気がするのに、終わりは来るのだ。
異国で食べるパンケーキ、わざわざ早起きして友だちと出かける朝ごはん、「納豆の豆ぐらい、自分の歯で噛むべきである」(p.131)と渡辺淳一が言い、向田邦子は「大人になって、(中略)一人一枚の焼き海苔を食べたいと思っていた」(p.137)と告白する。これまで名前を聞いたこともなかった人、そういえば読んだことがなかった人も、とにかく朝ごはんについて語っている。
中でも、心を掴まれたのは最後に置かれた佐野洋子による文章だ。その一編は、次の一文で始まる。
ガンになったので、髪の毛がメリメリと抜ける。(p.186)
そして始まる朝ごはんの、家族の物語。この人の文章はやはり、私の心をあっちこっちに振り回す。
紙の本はこちら↓