夜になるまえに

本の話をするところ。

名もなき人々の歴史に刻まれない名前について「歌われなかった海賊へ」

 unsung hero、という言葉がある。英雄とはその功績を歌に歌われるものだ。けれど英雄であるのにも関わらず歌われない人がいる。その功績が埋もれてしまっている人々がいる。 
本書は、ナチ体制下で体制にあらがったエーデルヴァイス海賊団の少年少女たちを描いている。「歌われなかった海賊へ」というタイトルは、彼ら海賊たちの「反抗」が、歴史に刻まれることがなかったということを示している。たとえ彼らの行動がちいさな、だが確かな爪痕を残すことになろうとも、歴史は彼らを忘れてしまった。しかし彼らを知っていて、覚えていようとする者、彼らの存在をなかったことにはさせまいとあがく者がいる。その苦闘が報われるかどうかはわからないが、大事なのは、彼らを忘れまいとする者がいるということそのものなのだろう。
本書は海賊たちだけの物語ではない。彼らは、英雄になろうとしたわけではないにせよ、英雄と呼ばれるにふさわしい行為をすることになった。だが歴史を形作っているのは、彼らを忘れようとする側だ。社会のかたちに抵抗するだけの意志を持たず、口を閉ざし目を背け、時間が流れすぎるのを待ち、力ある者の注意をひかないように小さくなっている、普通の人々だ。彼らは巨大な悪ではない。しかし彼らがいるからこそ、巨大な悪は為される。私やあなたがたやすくその一員になってしまう彼ら普通の人々、海賊たちを歌わなかった人々の姿を、私たちは決して忘れてはいけない。

 

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