これはちょっぴり子どもっぽいが息子をたいへんに愛しているおとうさんと、いたずら好きで元気な男の子との、なんてことのない日常のあれこれと、冒険の日々を切りとった漫画を集めた一冊である。
象の親子と「おとうさんとぼく」が出会い、仲良くなった子どもたちを親象とおとうさんが寄り添って愛情深く眺める「おとうさんたちとぼくたち」など、作者の心の優しさがにじみでるような話が、本書にはたくさん収められている。息子の宿題を手伝った罰に教師にお尻を叩かれるようなおとうさんではあるが、息子を大事にするその心は滲み出てくるようだ。たとえば、誕生日ででもあるのだろうか、男の子が一生懸命、おとうさんのために作った像を、まさにプレゼントするその時に落として割ってしまう「プレゼントありがとう」。おとうさんは、プレゼントを台無しにしてしまって泣き出す息子を前に、像の部品を使ってパイプの手入れをしてみせ、息子を抱きしめる。父から子への愛情が伝わってくる話だ。
台詞もなく、絵だけで語る、心温まる作品集で、おすすめである。
......と、この文章を終えることができたらよかったのだが、実はそういうわけにはいかない。巻末の「e.o.プラウエンについて」という文章に詳しいが、本書の著者e.o.プラウエン、本名エーリヒ・オーザーは、編集者のエーヒリ・クナウフ、作家のエーリヒ・ケストナーの親友だった。三人が活躍した時代はやがて、ナチスの台頭を迎え、ナチスに批判的だった三人はそれぞれ仕事ができなくなる、逮捕される、著書を焼かれるなど苦難の時を迎える。そしてある時、オーザーとクナウフは密告され、逮捕される。
この時代を写し取った傑作として、「この夜を越えて」(イルムガルト・コイン/田丸理砂訳、左右社)を思い出さずにはいられない。同じ家に住む親せきさえ信じることのできない、密告が横行した時代。自分の信条を口に出すことがすなわち死を意味することがあった時代。そんな時代に描かれたこの「心温まる作品集」がどんなふうに締めくくられているのか、その少し奇妙な終わり方を、「e.o.プラウエンについて」を読んだ後に、思い出してしまった。きっとプラウエンは、本が焼かれて密告者がはびこる世界を離れ、本の最後でおとうさんが行く、あの場所に行きたかったのだ。そこでは愛する息子がそばにいて、もう誰にも悩まされることはない。
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