夜になるまえに

本の話をするところ。

「超短編!大どんでん返し」からお気に入りを五篇紹介してみる。

 名前を見たらびっくりするような錚々たる顔ぶれが2000字で挑む超短編・どんでん返しの世界。188ページで実に30篇もの超短編を楽しむことができる。元気も時間もない時、ちょっと一本…ができるのがいい。すいすいと読むことができ、たとえ相性のよくない話があったとしても、30篇もあればきっと趣味に合うものが見つかるはず。
 今回はタイトルの通り、お気に入りを五篇紹介しようと思う。収録順に並べます。

①白木の箱 米澤穂信
 夫は、変わり果てた姿で戻って来た。白木の箱に収まって…
 2000字といったら実質5ページである。この5ページで夫の性格をちゃんと描き出して「なぜこうなってしまったか」を納得させるのがこの作家の巧さなのだと思う。現代のおとぎ話のような不思議な雰囲気が漂い、さすが、と思わせる端正な一篇。しかし、夫よ…

②親友交歓 法月綸太郎
 悩める作家と久しぶりに電話をかけてきた友人との会話はやがて…
 まずこの会話の不穏な雰囲気が一気に色濃くなるところ、「何かおかしいぞ」となるところが巧い。そしてさりげなく織り込まれた、作家が悩んでいる理由がラストに繋がり、更にラストの後で起こるであろうことを想像させる。ロアルド・ダールの短編を想起させるブラックさである。

③白い腕 上田早夕里
 子ども時代、私は実家の蔵で奇妙なものを目撃する。
 子どもだった私が蔵でくり返し目撃する奇妙なもの…という怪談のような出だしが、やはり怪談のような、幻想のような、微妙な位置に着地する。現実の裏側を少しだけ覗いてしまったような気持ちになる、不思議な味わいの一編。

④首の皮一枚 白井智之
 ある異常事態に陥ってしまった男が起死回生を図るが…
 これは面白い。たった5ページで伏線を張り、特殊設定を提示し、伏線を回収し、オチをつける、というなかなかできないことをやってのけている。この作家の個性が遺憾なく発揮された名刺のような一篇であり、これを読んで著者に興味を惹かれ著作に手を伸ばす読者もいるのではないだろうか。

⑤最後の指導 長岡弘樹
 ある殺人現場にやって来た二人の刑事。それは先輩刑事から後輩刑事への最後の指導の時間。
 この一篇は著者のシリーズ「教場0」の外伝とされている。筆者は「教場」シリーズの主人公が警察学校の風間教官であることしか知らずにこれを読んだが、ぜひこれだけは頭に入れてこの話を読んでほしい。ラスト、自分が読んでいたのがどういう話であったかがわかり、深い余韻に浸れる。

 どこから読み始めるのもどこまでで切り上げるのも自由、一編一編が短く、有名作家がそろっているので合う合わないは別にしてある程度の質は保証付き。というところが本書の人気の秘密なのだろう。よく知らない作家との思わぬ出会いもあるかもしれない。一度手に取ってみることをおすすめします。

 

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