夜になるまえに

本の話をするところ。

これはまさに掘り出し物。「禁じられた館」

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 難しきもの、それはミステリーの書評を書くこと。それも、未読の人に向けて、ネタバレをせずに、面白さだけは伝える文章を書くこと。できないよう、と時々思う。しかしこれまでに、書いてはきたのだ。あのエルヴェ・ル・テリエ「異常 アノマリー」の書評だって書いた。軽率に余計なことをぽろっと書いてしまって未読の人にとっての面白さを減じてしまうのではとびくびくしながら、書いた。だから大丈夫、やれるさ、と自分を励まそうとしても、大丈夫なのか? やれるのか? と思ってしまう。そんな一冊なのだ。この「禁じられた館」という本は。
 「禁じられた館」の舞台は、みんな大好き、「館」である。これまでの所有者に不幸が降りかかってきたことで知られる曰くつきの館、マルシュノワール館。新たな所有者の元にも脅迫状が送りつけられ、やがて事件が起こる。犯人は、逃げ道のないはずの状況から忽然と姿を消していた……
 本格ミステリーが好きな人にはたまらない、密室状態からの犯人消失である。その謎に取り組む捜査官たち。事件の夜に居合わせた目撃者たち。容疑者たち。はたして真相は。
 内容に関しては、ここで止めておかなければならない。もう読んだ人にはおわかりであろう理由によって、これ以上展開について話すことはできない。とりあえず、読み始めたら、最後まで読んでほしい。本格ミステリーファン(筆者もその一人である)が、時に髪をかきむしるようにして読みたくなる「館で不可能犯罪が起きて意外な真相が明かされる系ミステリー」ですよ、とだけ言っておこう。それしか言えないのです。
  かわりに注目したいのは、この本の刊行年である。一九三二年――エラリー・クイーンが「ギリシャ棺の秘密」「エジプト十字架の秘密」「Xの悲劇」「Yの悲劇」とミステリー史上に名を残す名作を四冊も世に送り出した年として有名なこの年に、この本は刊行された。本格ミステリーの歴史を振り返れば、一九二〇年代後半から一九三〇年代にかけてというのは、言うまでもなく、ヴァン・ダイン、クリスティ、クイーン、バークリーなどが傑作を連発した時代だった。本書にもこの時代の某名作の影響を受けているのではと思われるところがある(もちろんネタバレになるのでタイトルは挙げられない)。本格ミステリー華やかなりしころ、こんなにも本格ミステリーに向き合った一冊がフランスで生まれていて、それが今まで日本に紹介されていなかったのだと思うと、この時代のミステリーを愛好する者としては、翻訳者小林晋氏には感謝しても感謝しきれない。ぜひ、埋もれた傑作を探す情熱にあふれた解説を読んでいただきたい。「よくぞ掘り出してくれました」という有栖川有栖氏による帯の惹句に心から同意。あの時代のミステリーを愛する人に読まれるべき一冊だ。

 ……ところでこの本のアレなんですけれども、「○○○○(←ネタバレになるのでタイトルは以下略)」を思い出しましたよね!? 思い出しましたよね!?と、もう読んだ人を揺さぶりながら勢いよく訊きたいところなのだが、もちろんそうするにはその人が「○○○○」をもう読んでいるかどうか知っている必要があり、けれども「○○○○は読みましたか」と訊くこと自体が本書のネタバレになってしまう可能性もあるということで、ということはつまり、……嗚呼、ミステリーの話をするのは難しいのである。

 

このあたりでもミステリーの話をしております。

 

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