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「作りたい女と食べたい女」ドラマ版最終回の内容に触れています。
「作りたい女と食べたい女」という漫画がある。作者が最初にTwitterにアップして話題を集めた時から、筆者はこの漫画のファンだ。食を通じて心を通わせやがてはお互いに好意を抱くことになる女性二人の日常を、ジェンダー、親子関係、セクシュアリティなどの問題を絡めながら繊細に描く作品である。このブログの最初の記事も実はこの漫画についてのものだった。
作品のファンだったからこそ、ドラマ化の話を聞いて身構えてしまった。作者ゆざきさかおみははっきりと、これは「ふたりのレズビアンの話」だと発言している(し、作中でふたりはお互いに抱いているのが恋愛感情であると気づいていく)。このように原作でははっきりと描かれている同性愛要素が映像化に際して削られるようなことはないだろうか。作中の「食べたい女」こと春日さんは背が高く体格もよい、日本で活躍する女優の主流とは言えない外見の持ち主であるが、小柄でほっそりした役者がキャスティングされるようなことはないだろうか。
杞憂だった。春日さんを演じたミュージシャンの西野恵未は、漫画から抜け出してきたようなビジュアルの持ち主だった。そしてこの、心の優しさを底に秘めた、ぶっきらぼうとも取られかねないしゃべり方。まさに「春日さん」だった。原作ファンが見たかったもの、本当に見られるのだろうかと危惧を抱いていたものが、そこにあった。
ふたを開けてみれば、ドラマ「作りたい女と食べたい女」は、原作に誠実に向かい合った、これ以上を望めないような作品になっていた。「同性愛要素が消される」どころか、原作通りに野本さんは自分が同性である春日さんに対して抱く恋心をはっきりと肯定する。そして特筆すべきはふたりが共に年末を迎える最終回である。
この回には、原作にはないアレンジが加えられている。原作では、ふたりは海まで初日の出を見に行こうと計画するも、眠ってしまって見に行けず、マンションのベランダで並んで元旦を迎えることになる。ドラマ版では、ふたりが眠ってしまうところまでは同じだが、海に行くかわりに、マンションの裏にある公園に一緒に行くことになる。ふたりを待ち受けるのは、高台に続く長い階段だ。日の出に間に合うよう階段を駆け上るふたり。息を切らし立ち止まる春日さんに、野本さんは手を差し伸べる。「あとちょっと」だと言いながら。そしてふたりは手に手をとって、階段を最後まで登りきる。そして言いあうのだ。「間に合った」と。
現在、日本では同性婚が法的に認められていない。しかし、その状態を違憲とする判決が下されるなど、状況は少しずつ前に進んでいる。「あとちょっと」なのだ。「あとちょっと」で、野本さんと春日さんのようなふたりは、「間に合った」と笑いあうことができる。その未来はもう手が届くところまで来ている。このシーンに、そんな現実が重なった。
法的に家族になることを認められず、けれど寄り添いあいながら生きている人たち。フィクションの世界だけではない、現実に確かに存在している人たち。原作の漫画がそうであったように、このドラマ版もまた、そういう人たちのほうを向いている。それを一番感じたのが、原作にはないこのシーンだった。
原作では新たな人物が登場し、ふたりの仲も新たな局面を迎えている。来年放映が予定されているシーズン2では、それをどのように映像に移し替え、どんなものを見せてくれるのか。それが今から楽しみである。