夜になるまえに

本の話をするところ。

「黒猫を飼い始めた」からお気に入りを五編選んでみた。

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 いずれも「黒猫を飼い始めた」という一行で幕を開けるショートショート二十六編。二行目からはじまる自由が、各作家の個性を否応なくにじませる。面白い趣向のアンソロジーから五編、独断と偏見でお気に入りを選び、紹介してみることにする。なお、並び順は書籍に掲載されている順番である。

「ミミのお食事」 真下みこと
 黒猫のいるごく普通の日常の光景……と思わせておいて、実は読者にとんでもないことを隠している語り手。そのとんでもないことが明かされた時、そしてタイトルの意味が分かった時の衝撃は大きい。
    
スフィンクスの謎かけ」 犬飼ねこそぎ
 この長さで堂々の犯人当てミステリー。犯人当てのロジックがしっかりしているのももちろんのこと、タイトルの意味がわかって感心してしまった。ショートショートミステリーはここまでやってくれなくちゃ。

「飽くまで」 青崎有吾
 「ノッキンオン・ロックドドア」シリーズのような本格ミステリとはまた趣の違う一編。異様に何にでも飽きやすい主人公が飽きてしまったものとは。「あちら側」に行ってしまった/元々いる人の独白として、この短さながら非の打ち所がない。

「猫飼人」 小野寺史宜
 大事な人を亡くしてしまった男とその友人の会話。男は猫を飼うことで愛する人を亡くした悲しみから立ち直りつつあると語る。シンプルだが効果的なオチが完璧に決まり、鳩尾に一発食らったような声が出てしまう。

「登美子の足音」 矢部 嵩
 これは説明しにくい一編。猫を飼い始め、友人の猫の話を聞いていたら、その猫は……文章から漂うこのなんとも言えない不穏さは実際に読んでみないと伝わらないと思う。締め方も絶妙で、この先を知りたいような、絶対に知りたくないようなところで終わる。

 他にも「神の両側で猫を飼う」「ササミ」「会社に行きたくない田中さん」「ゲラが来た」「独り暮らしの母」などなどが印象に残った。いろいろな作家が少しいつもと違う面を見せてくれているのも楽しく、一話五分で読めるアンソロジー、どうか一度手に取ってみてほしい。

 

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