夜になるまえに

本の話をするところ。

わたしたちはまちがいを犯す「かわいい子ランキング」

 ある日、フォード中学の生徒たちに送られてきた「かわいい女の子ランキング」。一位はおとなしい女の子イヴだった。イヴの父親や妹ハンナはそれを「ほめられている」と受け取る。
 そのくだりを読んでいて、だめだよ、と思った。「かわいい女の子ランキング」の一位になったと喜ぶことは、「女の子を外見の美しさで評価しましょう」というゲームに乗ることだ。イヴの兄エイブがハンナに向かって次のように言うのは、それがわかっていたからだ。

「だれかがおまえの姉さんを物として見たってことだ」「そして、父さんはそれをどうでもいいと思ってる」(p.38)

 エイブと父親の態度の差に、ショックを受けることもできる。けれど私はこの差を希望と呼びたい。この差は、時代が進むにつれて、新しい世代が古い世代のまちがいに気づき、それを正そうとしてきたことを表すものだ。つまり時代が進めば進むほど、世代が新しくなればなるほど、きっと世界はよくなっていく。
 これから来る人たちへ、あなたたちは大丈夫だ。なぜなら私たちがたくさんのまちがいを犯すから。わざとではないのに、気が付かないうちに、まちがいを犯したくなどないのに、まちがってしまうから。あなたたちはそれを見て、うわあと思って、同じことはすまいと気をつけることができる。正に今、知らないうちに、自分たちもまた、まちがいを犯しながら。そしてあなたたちよりも更に新しい世代の人たちに、あなたたちもまた、まちがいを見せつけることになるだろう。そうやって世界は少しずつ、少しずつよくなっていく。
 いつかはもう、次の世代に見せつけるほどのまちがいがなくなってしまう、そんな時代がくるのかもしれないけれど、たぶんそれはまだだいぶ先の話だ。
 だから今私たちは、前の時代から残された「なくていいもの」をなくし、「あってほしいもの」を作りながら、できれば次の世代の人たちが、今私たちが苦しんでいるようには苦しまなくてすむように、ここをもっと生きやすいところにできるよう、自分にできることをやるしかない。私たちの前にここにいた人たちがずっとやってきたように。
 せめて、イヴや他の女の子たちをこんなにも苦しめることになるこんなランキングを見せられた時に、それに対抗する言葉くらいは、これからここに来る人たちに残していきたいと、私は思う。

 

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