プライド月間である六月に、Xで「PrideMonth2024」というハッシュタグで一日一件クィア・ストーリーを投稿するという試みをした。せっかくなのでこちらにも残しておこうと思う。
6月1日
荒れ果てた家を修復し美しい家に作り直すことは、心休まる住処を持たない自分の人生を立て直すことに似ている。ふたりの女性がお互いの中に見たものは、きっと何度でも帰っていくことのできる場所だった。
6月2日
"Loveless"
Alice Oseman
自身もアセクシュアルであるアリス・オズマンがアセクシュアルの少女を主人公に書いた一冊。アセクシュアルであることは孤独/不幸であることを意味しないし、アセクシュアルをテーマにしたこの本も、決して暗くもなく不幸でもない。翻訳されますように。
6月3日
If I Was Your Girl
Meredith Russo
自分を愛することができないあるトランスの少女が、自分自身の中にひとりで立つ力を見出していく。ひとりでも多くの人が、この本の最後に書かれていることばにたどり着けますように。これも絶対に翻訳してほしい一冊。
6月4日
Simon vs. the Homo Sapiens Agenda
Becky Albertalli
あるゲイの少年の、誰かもわからない相手との恋と、友情の話。カミングアウトについての話でもある。時に切実な話題を扱いながらも、決して暗くない、楽しい青春の物語になっている。映画版「Love, サイモン 」も素敵。
6月5日
「スピン」
ティリー・ウォルデン/有澤真庭訳、河出書房新社
家族がいる。けれど、少女は孤独だ。一番近しい弟でさえ、彼女が同性を愛することを受け入れてはくれない。この寂しい少女を見て、私もたまらなく寂しくなる。しかしこれは昔の話で、彼女はこの寂しさを生き延びたのだ。
6月6日
「ジョージと秘密のメリッサ」
アレックス・ジーノ/島村浩子 偕成社
一見思慮深くはないお兄ちゃんが、悩んでいるメリッサを見て一緒にゲームをしてくれるところ、が奇妙に好きなのである。一緒にいて安全を感じられるこんな人が、誰にでもいればいい。
※英語版は”Melissa”と改題されています。
メリッサも登場する「リックとあいまいな境界線」も読んでほしい。こちらにも素敵なほっとできる年長者がいます。
6月7日
「わたしの歯」山内尚
わたしの体は、誰かのためにこの形をしているのではなく、誰かのためにここに在るのでもなく、わたしのためにこうなっている。わたしの体をわたしから奪おうとする人なんて要らないのだ。多くの人に読まれてほしい一編。
こちら↓から読めます。
6月8日
“Boy Meets Boy”
David Levithan
本屋での出会い。花束を持って家に迎えに来る彼。ふたりでボートに乗る。これはちょっと正視できないくらいにピュアで最高にきゅんきゅんする男の子同士のラブストーリーである。
長めのレビューはこちら↓
6月9日
「ローラ・ディーンにふりまわされてる」
マリコ・タマキ/ローズマリー・ヴァレロ・オコーネル、三辺律子訳、岩波書店
あなたの恋人は、あなたを大事にしてくれる人だろうか? ひとりの少女を主人公に、毒でしかない、けれど去ることの難しい恋愛関係を描く。
6月10日
「フィリックス エヴァー アフター」
確かに現実に存在する差別の痛みを逃げずに描きながらも、これは間違いなく最高に幸せなラブストーリーなのだ。
6月11日
「ボーイフレンド演じます」
アレクシス・ホール/金井 真弓
二見書房
この本が大好きなのは、好きあってはいるものの自分に愛される価値があるようには思えない二人の人間が、それでもどうにか一緒にいるための努力をしているところ。続編も翻訳されますように。
6月12日
「エニシング・イズ・ポッシブル」
トランスの物語をトランスの俳優が演じていて、差別を描きつつ、華やかで楽しい映画。あのビリー・ポーターの初監督作である。この絶妙なラストが好き。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09XK7LQD7?tag=filmarks_web-22
6月13日
「are you listening? アー・ユー・リスニング」
ティリー・ウォルデン/三辺律子訳
トゥーヴァージンズ
「スピン」では、少女はひたすらに孤独だった。この本では、彼女たちは孤独かもしれないが、お互いがいる。相手におずおずと手を伸ばし合うようなふたりの姿に、大丈夫だと言われたような気になる。
6月14日
「作りたい女と食べたい女」
ゆざきさかおみ KADOKAWA
最初Twitterで流れてきた時からずっと好きな優しい物語。画像が2巻なのは、この巻に収録されている、野本さんが自らをレズビアンと認め受け入れる話が好きだから。
こちらの記事↓に、このシリーズについての記事がまとまっております。
6月15日
「ノンバイナリースタイルブック」
山内 尚 柏書房
自分の着たいものを、着たいように、着る。ただそれだけで、わたしたちはきっと、最強だ。
6月16日
「ゴッズ・オウン・カントリー」
労り、労られることを知らないような青年がそれを学んでいく。おそらく彼に労りを教えることのできなかった父でさえも、それなしに生きていくことはできない。
6月17日
「HEARTSTOPPER ハートストッパー」
アリス・オズマン/牧野琴子訳
トゥーヴァージンズ
当たり前のように物語の中心にいるのが難しかった若者たちがここにはいる。ごく自然に、自分たちの物語の主役として。それはきっと悲劇に終わる物語ではないと、心から信じることができる。
こちらの記事に↓シリーズに関する過去記事がまとまっております。
6月18日
「マリはすてきじゃない魔女」
柚木麻子 坂口友佳子 絵
エトセトラブックス
あたりまえにそこにいることの安心感に満ちた、魔女の楽しい物語を、子どもの本として読めることのしあわせ。
6月19日
「どんなわたしも愛してる」
ジョナサン・ヴァン・ネス/安達 眞弓訳
「クィア・アイ」ではいつもハッピーそうに見えるジョナサンも、決していつもハッピーな人生を送ってきたわけではない。それでもこの本は、決してあなたを絶望させたりはしない。だってジョナサンだもの。
6月20日
「お嬢さん」
女性同士のラブストーリーであり、騙し騙されるミステリーであり。原作「荊の城」を鮮やかに書き換えた、美しい映画。
https://www.amazon.co.jp/dp/B074TTK456?tag=filmarks_web-22
6月21日
「イン・ザ・ドリームハウス」
カルメン・マリア・マチャド/小澤身和子訳
エトセトラブックス
こうやって、蜘蛛の糸に絡め取られたように、去った方がいいに決まっている場所に留まり続けてしまうことは確かにある。ふたりでいるということの難しさよ。
6月22日
E.アニー・プルー/米塚真治訳
これまでに世界に忘れ去られてきたであろう人たちのことを考える。確かにそこにいたが、語られることはなく、語ることはできず、ここにいると言うことができなかった人たちのことを。
6月23日
「地上で僕らはつかの間きらめく」
オーシャン・ヴオン/木原善彦訳
新潮社
母と子の、少年と少年の、孤独の、恋の、死の、そして何よりも生の物語を、詩のような文章で語る。読むことができない人に向けて書く、ということ。それが無駄な行為では全然ない、ということ。
6月24日
「ヴァンサンに夢中」
エルヴェ・ギベール/佐宗鈴夫
エルヴェ・ギベールが好きだ、という人と、そういえば会ったことがない。この作家の本を読みたくて私はフランス語を学んだのだった。これはあまりにも剥き出しな一冊。
6月25日
「蜘蛛女のキス」
物語るということ、それを聞くことの快さがふたりを結びつけたのかもしれない。このモリーナという人を、そのやさしさを、私はずっと忘れられないでいる。
6月26日
愛する人に別れを告げたい。ただそれだけ。ダニエラ・ベガの力強いまなざしと歌声が、私たちをくぎ付けにする。
6月27日
「赤と白とロイヤルブルー」
ケイシー・マクイストン/林啓恵訳
二見書房
最初は気に食わなかったアイツと仲がいいフリをすることになり、段々距離が縮まっていって、という王道ど真ん中のロマコメ。脇役たちがとにかくよくて、いつまでも読んでいられる楽しい一冊。
6月28日
「トランスジェンダー入門」
周司 あきら/高井 ゆと里
知らないうちに差別に加担してしまわないように、まずはこの本を読んでほしい。
6月29日
「LETTERS UNBOUND 第2便」
某名作サメ映画をクィアの視点から語り直した「ズーョジ」を読み、近年相次いでいる語り直しに触れた訳者あとがきを読み、そういえばフェミニズムの観点からの語り直しは数多いが、クィアの視点からの語り直しって他に何があるだろう、と考え込む。
6月30日
「夜になるまえに」
一連の投稿はこの本で締めくくろうと思っていた。そこらの小説よりも余程激しいアレナスの生を自身が綴る一冊。おかしくて、恐ろしくて、凄まじくて、忘れられない。もう読み返す必要がないくらいに読んだ。
今日は何を紹介しようかと、毎日考えるのがとても楽しかった。いずれも心からおすすめできる本であり映画である。これらの物語を必要としている人のもとに、どうか届きますように。